本当に日本人は流されやすいのか – 施光恒

本当に日本人は流されやすいのか - 施光恒

「本当に日本人は流されやすいのか」の副題

自律性と主体性を併せ持つ日本人。「右に倣え」の米国化は愚策である

「本当に日本人は流されやすいのか」の流れ

・第1章、第2章
 日本人が自律性、主体性に欠け、同調主義的で権威に弱いという意見が正しいか吟味
・第3章、第4章
 欧米型構造改革を路線を選択した日本社会が陥った苦境について
・第5章
 問題の解消のために

第1章 同調主義で権威に弱い日本人?

・ジョーク
 沈没間際の豪華客船、船長は乗客に海に飛び込むよう指示しないといけない
 アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
 イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士ですよ」
 ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則です」
 イタリア人には「飛び込めば女性にモテますよ」
 フランス人には「飛び込まないでください」
 日本人には「みんな飛び込んでますよ」

・忖度の本来の意味は『相手の気持ちを推し量ること』。『権力者におもねって、その意を汲み取る』という意味でマスコミに使用されている。

・日本人=同調主義的で権威に弱いという見解の起源は、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトの『菊と花』。終戦直後ベストセラーとなった。

・この意見を受け入れた日本人は、自らの文化に対する自信を失い、欧米に比べ劣っているのだと考えるようになった。国際政治学者の中西輝政は『菊と花』が自虐思考の枠組みとなったとまで述べている。

第2章 日本文化における自律性

・ベネディクトは日本文化を『恥の文化』と論じた。物の良し悪しを判断する際に、他者の目や世評を基準とする文化。『恥の文化』とは同調主義的で他律的な道徳観を有する文化だと規定。

・ベネディクトは欧米文化を『罪の文化』とし、道徳の絶対的原理に従うことが道徳的行為であると考える。日本は同調主義的で自律的な思考・振る舞いを可能にする文化と考えた。これは一方的・一面的な意見である。

・そもそも、日本と欧米では自己感に相違がある。日本では自己を他者との関係性や社会的役割といった状況と関連付けて理解する傾向が強い。欧米では自己を周囲から独立したものとして捉える傾向が強い。

・自分を表す言葉が1つのヨーロッパ言語では自己は状況や他者との関係に先んじて独立に規定される。日本語においては、自分が誰か、相手が誰かは相手との関係性から決定される。

・欧米『原理重視の道徳観』:道徳的判断の際に状況を超越した原理(公正さ、普遍的平等、人権など)を強調。
日本『状況重視の道徳観』:人間関係、他者の気持ち、社会的役割などの状況を道徳的思考の際に重視する。

・状況重視の道徳観では、他者の期待や感情、思考などを敏感に察知し読み取る感情移入能力(思いやり)が必要になる。

・好き嫌いをする子供のしつけ
欧米:権威を持って接する「母親が食べなさいといっているのだから食べなさい」
日本:他者の気持ちに言及する「お母さん(お百姓さん)が一生懸命作った〜」
日本では他者への感情移入能力を身につけるべき能力として重視する。

・日本では、対立する見解や出来事が生じた場合、他者の気持ちや状況に合わせてものの見方を柔軟に変化させ折り合いをつける主体的な行為を規範的モデルとして設定する傾向が強い。

・他者の同感を得るために人は他者の視点から自分の状況をみることを学んでいく。自己の状況を見つめる他者の視点を徐々に内面化する。そこから自分を見つめることにより自己を獲得する。すなわち、自分を見つめる視点を「公正な観察者」の視点に近いものにしようとする。ここに自律的な思考や行為を見いだすことができる。

・感情移入能力により他者の視点を内面化し、その内面化された視点から既存の自己の思考や行為を見つめ吟味する。そして、状況に適ったものへ思考・行為を洗練しつづける自律性の理念の獲得が人格成熟に至る途である。

・日本の道徳観では過去の人々の視点を意識することで人は自分の人生を長い歴史のなかに位置付け、過去と将来を見渡しつつ、歴史の縦軸の中で人生の意味を問うことができる。

・内山節は欧米的な主体性は自我が出発点、日本は他者が出発点と述べる。他者とは自然であり、村人であり、村を訪れた人々。具体的な他者との関わりの中で、他者の眼差しを自分のものにしながら主体性を発揮する。

・文化は過去の幾世代に渡る人々の生活の積み重ねから形成されたもの。どの文化も一世代を生きる我々だけでは到底理解できない多面性を有している。安易に全面的取り替えを行うのではなく、文化に潜む多様な可能性を探り新しい事態に対処するよう努めるべきだ。

・文化的土壌を活かしながら自律性を身につけるためには
 - 日本型自律性の存在、及びその獲得方法を認識する
 - 感情移入能力の陶冶と自律性の獲得と関連付けての理解
 - 自律性の獲得、成熟は他者との様々な関わりの中で得られることを理解
 - 自律性の獲得の過程で、内面化の対象を出来る限り幅広く、多種多様なものにする

第3章 改革がもたらす閉塞感

・日本では個人主義に向かうこと(関係性の否定)は新しく近代的・進歩的となのだと戦後急速に広まった。だが、一方で無意識のレベルでは従来の関係志向心理傾向が継続。この自己矛盾がひきこもりを始めとする現代日本の様々な問題の背後にあるのではないか。

・現代日本人のメンタリティーは心理学用語でいう『ダブルバインド』の状態にある。『ダブルバインド』とは相互に矛盾するメッセージが発せられ、受け手が混乱してそこから抜け出せない状態。

・米国人は自分が他者から独立しており、他者よりも勝っているという優位性が感じられたときに幸福感を覚える。日本人は他者との調和的なつながりが感じられた時に幸福だと感じる度合いが強い。(文化心理学の研究:北山忍など)
※箱根駅伝、プロジェクトXなど

・日本人は他者とのつながりの中に自分をおいてこそ充実感、幸福感が得られる。だが、明示的意識・言論レベルでは個人主義的・関係否定的な言説に惹かれる。それに基づき「主体性の確率を〜」「自分のことは自分で決めなさい」といった言語的メッセージを発し社会の構造改革を行ってきた。それが心理的にダブルバインドを招き社会の疲弊、閉塞感を起こした。

第4章 日本的なものの抑圧

・構造改革とはもとを辿れば米国による占領政策の基調となった日本理解にある。
 - 日本はまだ民主化していないゆえに個人の確率が見られず半封建的な社会である
 - 日本を支配してきたのは軍と官僚であり、大衆は彼らの情報操作により騙された

・この認識によって米国は占領政策を正当化。米国のイデオロギーが戦後日本人の言説の中心となった。『民主主義vs軍国主義』『市民社会vs封建社会』

第5章 真っ当な国づくり路線の再生

・意識レベルと無意識レベルの価値観の相違が自己矛盾を起こしている状態。アイデンティティの不安定さを解消するには、無意識レベルの価値観に意識レベルを適合させるよう調整すること。

・どの社会でも伝統的な慣習や規範、社会構造などが長い時間をかけて形成される。これらは文化的特徴を帯びる。個人はそうした文化的特徴を備えた社会に参加する中で心の働きを形成していく。結果として個々人の心の働きも社会ごとの文化的特徴を帯びたものとなる。

・欧米の思想、理念を無批判に導入し、日本社会の批判する戦後知識人を「一種の質の悪い輸入業者」と批判。「吟味もせずに押し売りしている」と言う。西洋人の見方を肯定し、西洋人の目で日本を見る。これは好ましくない、なぜなら我々は西洋人ではないから。(文化人類学者 梅棹忠夫)

・明治以来の日本の外来知識の摂取には『採長補短』という考え方があった。長所を学んで短所を補うという意味。『和魂洋才』とも言う。

・英国の政治哲学者ジョン・グレイはリベラリズム(自由主義)の伝統には2つの要素があると論じている
 1. 世界共通であることを重視、それを体現する理想的制度を求める
  - 1政治経済制度の伝播、例としてアメリカの新自由主義の各国への伝播
 2. 多文化を重視する
  - 自由主義・市場経済は各国の文化に根ざし、それぞれ特徴ある形になっていく

・リベラリズムが各国の文化的多様性を認めず、1つの型に押し込めるものであるのはおかしい

・アングロ・サクソン型資本主義では企業は株主の所有物であることを強調するが、日本型資本主義では経営者を含む従業員の共同体として理解される。従業員、顧客、取引先、地域、国など関係者の利益を考慮して経営される。

・我々日本人は自分が生まれた社会の特徴、その中で育まれた心理的傾向を理解して、そこから出発する必要がある。

・グローバル化の反対概念は国民主権の復活。ヒト・モノ・カネの流れを国が民主的に監督、調整していく力の復権。

・日本では班活動、給食当番、教室掃除、学級会、部活動など共同作業の大切さを教わる。他者との共同作業を重視し協調性を持ち気持ちよく働ける場を作り出すことの重要性を協調してきた。そうした場づくりが活力を与え、新しい発想の創造や個々の成長に繋がると無意識に捉えてきたから。

・戦後日本の製造業の強さの要因は「カイゼン」活動、現場の作業員の自発的な改善提案ボトムアップにある。ここでは「起業家精神」とは仕事にたいする創造性や創意工夫、主体性に取り組む意欲などを意味する。(ケンブリッジ大学 経済学者ハジュン・チャン)

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